53 昔は不足、今は過多 同じ糖質でも意味合いは…

 人類の歴史をひもといてみると、糖質制限食のような食事は必ずしも異常でないことがわかります。むしろ、現代のように主食として穀物を多く取る食生活は昔では考えられないことでした。

 人類が誕生してから約700万年といわれていますが、農耕による穀物の栽培が始まったのは1万年前であり、定着したのはほんの5000年前くらいからです。日本においては、米の栽培が始まったのは2500年前の弥生時代といわれており、それ以前の縄文時代には穀物の常食はなかったと考えられています。

 縄文時代の人々は狩猟と採集で食事をまかない、木の実、魚、果実、野草、小動物といったものが中心でした。こうした食生活では、糖質量が全体に少なく、血糖値が上昇するということはほとんどなかったと考えられます。最近では、「肉食ダイエット」という言葉も流行し、昔人間は元来肉食動物であったというような解説を書いている本もあります。

 しかし、肉食といいますと、現代のイメージから、昔は牛肉、豚肉、鶏肉のような肉ばかりを食べていたと思われるかもしれませんが、頻繁に肉の狩猟に成功していたとは考えづらく、むしろ魚や木の実の方をよく食べていたのではないかと思われ、私は、元来人間は雑食であったのではないかと考えています。

 米などの穀物の栽培が始まって、人類の人口は爆発的に増えました。狩猟や採集という不安定な食事採取ではなく、人類が安定的に食事を得る手段を得たためであり、糖質のエネルギー源としての素晴らしさが、歴史からもうかがえます。また、現代に至るまで、人々にとって糖質は「生きるために欠かせない栄養」でした。米や麦、芋などは貴重なエネルギー源であり、たくさん食べられること自体が豊かさの象徴でもありました。

 農作業や力仕事が中心だった時代には、食べた糖質はしっかり体で消費されていたため、「糖質を十分に摂取すること」は健康を守る上でとても大切だったのです。さらに、人間の脳は多くのエネルギーを必要とします。その主な燃料になるのがブドウ糖です。つまり糖質は、人類が活動し、生き延びるために重要な役割を果たしてきた栄養素でした。

 ではどうして人類の繁栄の立役者である糖質が現代では、悪者扱いされるのでしょうか。 現代では、コンビニやスーパー、自動販売機などで、いつでも簡単に糖質を取ることができます。白米、パン、麺類、お菓子、果物、ジュースなど、身の回りには糖質を多く含む食品があふれていて、現代人の多くが日々糖質を取り過ぎてしまっています。

 その一方で、車移動や冷暖房完備の中でのデスクワークが増え、昔に比べて体を動かす機会は大きく減りました。つまり現在は「糖質を消費する量」より「糖質を摂取する量」の方が多くなりやすい時代なのです。糖質を取り過ぎると、血糖値が急激に上昇します。すると、それを下げるためにインスリンというホルモンが大量に分泌されます。この状態が長く続くと、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、動脈硬化など、さまざまな生活習慣病につながっていきます。

 また、糖質を取り過ぎると、前回述べた食後に血糖値が急上昇してしまう「血糖値スパイク」を起こして、血管への負担が大きくなり、心筋梗塞や脳梗塞のリスクになってしまいます。

 昔は「糖質不足」が問題でしたが、現代では「糖質過多」が健康課題になっています。同じ糖質でも、時代によってその意味合いは大きく変わりました。現代人は活動量も乏しいので、エネルギー源にしかなりえない糖質は体内で余ってしまい、肥満や糖尿病につながってしまうのです。

 以上のような理由から、現代を生きる私たちは極力糖質を控えることが賢明だと思います。

2026年7月25日掲載

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